2026年調剤報酬改定が示す『薬局経営の転換期』─国が薬局に求める新しい役割【前編】
公開日:2026年2月25日
2026年(令和8年度)の診療報酬改定率が2月13日に発表されました。改定率は+3.09%という30年ぶりの大幅なプラス改定ですが、調剤薬局の経営環境は「見た目ほど楽観視できない」というのが業界の実感です。今回のシリーズでは、この改定の全貌を解説し、薬局経営者と薬剤師が取るべき対策を提示します。
改定率3.09%の「本当の意味」─内訳を理解することが経営判断の分岐点
改定率3.09%という数字を額面通りに受け取ることは危険です。この率の大半が「賃上げ」と「物価高騰対応」に充てられているからです。内訳を見ると、その全体像が見えてきます。
| 区分 | 改定率 | 性質 | 薬局への影響 |
|---|---|---|---|
| 賃上げ対応分 | +1.70% | ベースアップ評価料等の原資 | 職員給与の引き上げに充当する部分。自動的には薬局収入にならない |
| 物価対応分 | +0.76% | 光熱費・材料費等の上昇対応 | 経営コストが削減されない限り、実質的な増収にならない |
| 光熱費・食費対応分 | +0.09% | エネルギー価格上昇への直接対応 | 調剤薬局では病院のような食堂がないため、この恩恵は限定的 |
| 2024年度改定後の経営悪化対応分 | +0.44% | 前年度改定の弊害是正 | 一部の薬局の経営改善を目的とするが、全薬局に波及しない可能性あり |
| 効率化・適正化(マイナス) | ▲0.15% | 後発医薬品置換え、リフィル処方推進等による減点 | 処方箋枚数当たりの単価が下がる直接要因 |
核心的な事実:
実質の技術料等の改定分(本体)は+0.25%に過ぎません。
調剤報酬に限定すると、更に厳しく+0.08%となります。
つまり、人件費増や物価高騰分を除いた「純粋な薬局の仕事の評価」としては、極めてシビアな内容となっているのです。
改定の基本方針:「機能を持たない薬局」と「地域インフラ薬局」の二極化
今回の改定の最大の特徴は、国が「薬局の役割を再定義する」という強い意志を示していることです。これまでの改定は「誘導」でしたが、今回は「強制に近い厳しいメッセージ」を発しています。
その方向性は以下の通りです。
❌ 国が評価しない薬局像
- 立地依存モデル(門前薬局):医療機関の側に出店して、処方箋を待つだけの薬局
- 医療モール戦略:複数の医療機関が集中する場所に出店し、患者が来るのを待つ薬局
- 後発医薬品割合が低い薬局:ジェネリック医薬品の使用促進に取り組まない薬局
- 対人業務の実績がない薬局:調剤だけに専念し、かかりつけや在宅に関わらない薬局
✅ 国が評価する薬局像
- 地域医療貢献型:在宅医療や高度な薬学管理に取り組む薬局
- かかりつけ機能型:患者の医薬品管理を一元的に行い、継続的にフォローする薬局
- 供給拠点機能型:医薬品の安定供給、後発医薬品の積極利用、他薬局との連携
- スタッフ処遇改善型:得られた収益を職員の賃上げに充てる薬局
調剤基本料の抜本改革:「立地依存型」経営への規制強化
今回最も大きな経営インパクトをもたらすのが、調剤基本料周辺の改定です。点数を見る前に「なぜこのような変更が行われるのか」という背景を理解することが重要です。
背景:都市部の薬局過密化問題
大都市圏、特に医療モール内や大病院周辺では、薬局の乱立が深刻化しています。患者にとっては選択肢が増えるメリットもありますが、経営効率の観点からは「無駄な出店」として問題視されてきました。厚生労働省はこの状況を改善するため、今回の改定で「立地に頼る経営を禁止する」に近い強力な措置を講じました。
変更点①:基本料の点数引き上げ(いずれも微増)
| 区分 | 現行(R6) | 改定後(R8.6~) | 変更幅 | 意味 |
|---|---|---|---|---|
| 調剤基本料1 | 45点 | 47点 | +2点 | 特定医療機関に依存しない「面分業」の推進 |
| 調剤基本料2 | 29点 | 30点 | +1点 | 門前薬局の相対的評価低下 |
| 調剤基本料3イ | 24点 | 25点 | +1点 | 医療機関連携型の微調整 |
| 調剤基本料3ロ | 19点 | 20点 | +1点 | 同上 |
| 調剤基本料3ハ | 35点 | 37点 | +2点 | 面分業推進の象徴 |
注目点:「調剤基本料1」と「調剤基本料3ハ」が2点引き上げられたのは、医療機関に依存しない薬局、つまり「開かれた薬局」への評価が高まったことを意味します。
変更点②:「集中率85%」という新しい壁の出現
これまで多くの薬局が「調剤基本料1」を維持していた理由は、月間処方箋受付回数や特定医療機関への集中率(その医療機関からの処方箋が全体に占める割合)の基準を満たしていたからです。しかし、今回の改定でこの基準が大幅に厳しくなりました。
| 月間処方箋受付回数 | 現行基準 | 改定後基準 | 該当する調剤基本料 |
|---|---|---|---|
| 1,800回超2,000回以下 | 集中率95%超で基本料1 | 集中率85%超で基本料2へ転落 | ▲17点 = ▲1,700円/月 |
| 1,800回超 | 集中率95%超で基本料1 | 集中率85%超で基本料2へ転落 | 月間受付回数が20日で1,800回 ≒ 1日90枚。中規模薬局が直撃 |
経営シミュレーション例:200処方箋/日の薬局
現状:調剤基本料1(47点)× 200処方箋 × 20日 = 188,000点 = 1,880,000円/月
基本料2へ転落の場合:調剤基本料2(30点)× 200処方箋 × 20日 = 120,000点 = 1,200,000円/月
月間減収:680,000円 ≈ 年間817万円の経営悪化
変更点③:【新設】「門前薬局等立地依存減算」─最大のペナルティ
今回の改定で最も衝撃的な措置が、この新設項目です。既に薬局が多数存在する地域や医療モール内に新規出店する場合、調剤基本料から一律15点を減算するという強力なペナルティが導入されました。
対象となる条件(概要):
- 地域的要件:札幌市、仙台市、さいたま市、千葉市、東京23区、横浜市、川崎市、相模原市、名古屋市、京都市、大阪市、堺市、神戸市、広島市、福岡市など都市部に所在
- 立地的要件:半径500メートル以内に他の薬局が存在する
- 集中率要件:特定の医療機関からの処方箋が85%を超える
- 密集要件:次のいずれかに該当:
- 200床以上の病院から100メートル以内にあり、その敷地内に他の薬局がある
- 周囲50メートル以内に他の薬局が2店舗以上ある
経営インパクト:
減算15点 × 150処方箋/日 × 20日 = 45,000点 = 450,000円/月 ≈ 年間540万円の減収
新規開設する薬局で、この条件に該当する場合、最初から利益を圧迫されることになります。
経過措置(既存薬局への配慮):令和8年5月31日時点で既に開局している薬局については、当面この減算の対象外となります。ただし「当面」という表現から、将来的には拡大される可能性もあります。
変更点④:医療モール「合算ルール」による基本料転落
医療モール内や同一敷地内に複数の医療機関(クリニック等)がある場合、これまではそれぞれの医療機関からの処方箋を別々にカウントすることで、特定医療機関への集中率を見かけ上「低く」保つ工夫ができました。
しかし、改定後は「同一敷地内または同一建物内の複数の医療機関」を「1つの医療機関」とみなして集中率を計算することになります。
具体例:医療モール内に3つのクリニックがある場合
従来のカウント方法:
- クリニックA:100処方箋/月(集中率15%)
- クリニックB:100処方箋/月(集中率15%)
- クリニックC:100処方箋/月(集中率15%)
- 他医療機関:300処方箋/月(集中率45%)
- 結論:最高集中率45%→基本料1を維持
改定後のカウント方法:
- 医療モール(A+B+C):300処方箋/月(集中率43%)
- 他医療機関:300処方箋/月(集中率57%)
- 結論:最高集中率57%→基本料1を維持(実は無傷)
ただし…同一施設内の医療機関が多い場合や、他医療機関の処方箋が少ない薬局では、一気に85%を超えて基本料2へ転落するリスクが高まります。
「6月1日施行」の2段階スケジュール:4月から5月の対応が重要
今回の改定は、前回2024年度改定と同様に、薬価と報酬の施行日がズレています。
| 項目 | 施行日 | 対応内容 |
|---|---|---|
| 薬価改定 | 2026年4月1日 | 薬価が全体で約▲0.86%引き下げ。新しい薬価で仕入れが開始 |
| 診療報酬(調剤報酬)改定 | 2026年6月1日 | 調剤基本料・加算等の新点数が適用される |
4月〜5月の「狭間の期間」における実務上の課題:
- 在庫管理:旧価格で仕入れた医薬品と新価格の医薬品が混在。廃棄判断を急ぐ必要がある
- レセコン更新:6月1日の新点数への切り替えに向け、システム業者への依頼が必須。早めの着手が必要
- 患者説明:薬代が変わる可能性(4月に下がり、6月に調剤基本料で調整される可能性)について、事前告知が重要
- スタッフ教育:6月1日の新ルール(基本料の新区分、集中率の新計算方法等)をスタッフが理解していることが必須
薬局経営の「選別の時代」へ:自局の現状把握が最優先
今回の改定は、医療機関の改定以上に「薬局経営モデルの再考」を迫る内容となっています。
6月施行まで残り3ヶ月間で、薬局経営者が取るべき優先事項は以下の通りです:
- 自局の集中率・処方箋受付回数を正確に把握する
- 過去12ヶ月間の月別処方箋受付数を集計
- 特定医療機関からの処方箋の割合を正確に計算
- 現行の調剤基本料区分が継続するか、転落するかを判定
- 改定後の経営シミュレーションを行う
- 基本料転落のリスクを定量的に把握
- 他の加算項目(地域支援・医薬品供給対応体制加算、ベースアップ評価料等)で補填可能かを検討
- 必要な人員配置・設備投資の可否を判断
- スタッフへの説明と不安解消
- 薬局の経営方針(地域密着化か、現状維持か)を明確に伝える
- ベースアップ評価料等による処遇改善の具体的計画を示す
- システム業者との連絡・事前準備
- レセコン更新の日程確認
- 新点数への切り替え試算を依頼
次回予告
次回の第2回では、調剤基本料の改定による「経営格差の拡大」と、その対策となる「地域支援・医薬品供給対応体制加算」の詳細解説を行います。「後発医薬品85%」という新しい参加資格が、多くの薬局の経営に与える影響を具体的に分析します。
【参考資料】
- 厚生労働省(2026年2月13日)「令和8年度診療報酬改定答申」
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定に係る個別改定項目」
本記事は、2026年2月25日時点の公開情報に基づき作成しています。詳細は、厚生労働省の正式な告示・通知をご確認ください。

0 件のコメント:
コメントを投稿