在宅医療への経営シフトとかかりつけ薬剤師機能の再構築─訪問から継続管理へ【在宅・対人業務編】

2026年2月28日土曜日

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在宅医療への経営シフトとかかりつけ薬剤師機能の再構築─訪問から継続管理へ【在宅・対人業務編】

公開日:2026年2月27日

前回までの2回で、調剤基本料と地域支援加算の改定について解説しました。今回は、基本料転落や加算喪失のリスクを回避する「もう一つの道」として、在宅医療・在宅患者訪問薬剤管理指導への経営シフトと、かかりつけ薬剤師機能の再構築について詳細に解説します。この2つのテーマは、「門前薬局」から「地域インフラ薬局」への転換の鍵となります。

在宅薬学総合体制加算の抜本改革:実績の「見える化」と段階的評価

今回の改定で、在宅医療への取り組みは大きく後押しされています。その象徴が「在宅薬学総合体制加算」の改定です。

背景:2040年に向けた在宅医療の急増需要

日本は急速に超高齢化社会へ進みます。特に85歳以上の高齢者は、2026年比で62%増加することが予測されています。このため、医療機関での入院ベッド数は限定的になり、在宅医療・在宅介護の需要が急増します。薬局は、その需要に応える「地域の医薬品供給拠点」として機能する必要があります。

新しい在宅薬学総合体制加算の5つの変更点

変更内容 従来(R6) 改定後(R8.6~) 意味
加算1の体制要件 在宅体制の整備があること 在宅患者訪問実績24回以上/年が必須 体制だけでなく実績が評価基準に
加算2の最高評価 加算2が最高(32点) 加算2内で2段階に分化(50点 or 100点) 居宅訪問(1人)と施設訪問で評価を区別
加算2の高評価条件 存在しない 単一建物診療患者が1人の場合は100点 個別訪問の手間がかかるケースを優遇
新設加算 存在しない 「訪問薬剤管理医師同時指導料150点」 医師との連携を評価
複数名訪問の新設 不可 「複数名薬剤管理指導訪問料300点」新設 困難事例対応を評価

【重要】在宅患者訪問薬剤管理指導料の「6日間隔ルール」が廃止

今回最も実装効果の高い改定は、この点です。

従来のルール(R6):

「同一患者に対しては、6日以上の間隔を空ける必要がある」

つまり、月4回程度の訪問が上限でした。

改定後のルール(R8.6~):

「6日間隔ルールを廃止。週1回の訪問が可能に」

つまり、月4回→月8回程度に訪問頻度が倍増可能です。

在宅薬学総合体制加算1・2の点数構成

区分 点数 実績要件 適用薬局
加算1 30点 基本的な在宅体制 + 在宅患者訪問実績24回以上/年 在宅医療に初めて取り組む薬局向け
加算2(施設等) 50点 加算1の要件 + かかりつけ薬剤師等の実績24回以上/年 在宅・施設に対応する薬局(標準的)
加算2(居宅1人) 100点 加算2(50点)+ 単一建物診療患者1人の訪問実績を別途実施 個別訪問による高度な在宅管理を実施する薬局

注目:加算2が「50点 or 100点」に分化したことで、同じ在宅に取り組む薬局でも、訪問形態により最大2倍の評価差が生まれました。

経営シミュレーション:在宅医療への転換による増収効果

前提条件:現在、在宅医療に取り組んでいない門前薬局

  • 月間処方箋受付:5,000枚
  • 調剤基本料1:47点
  • 特定医療機関への集中率:90%(基本料2転落予備軍)
  • 在宅患者訪問実績:現在0回

現状(R6年度):

  • 調剤基本料1:47点 × 5,000処方箋 = 235,000点 = 2,350,000円/月
  • 地域支援加算(実績未達と仮定):0円
  • 月間基本収入:2,350,000円

シナリオA:基本料転落(対策なし)(R8.6~)

  • 調剤基本料2:30点 × 5,000処方箋 = 150,000点 = 1,500,000円/月
  • 月間減収:850,000円 ≈ 年間1,020万円

シナリオB:在宅医療へのシフト(1年目)(R8.6~)

  • 調剤基本料1:47点 × 5,000処方箋 = 235,000点(基本料維持)
  • 在宅薬学総合体制加算2(50点):新規患者20人 × 月4回訪問 = 4,000点 = 40,000円/月
  • 在宅患者訪問薬剤管理指導料:1回300点 × 月80回(20人×4回) = 240,000点 = 2,400,000円/月
  • 月間総収入:4,875,000円(+2,525,000円 vs 現状)
  • 1年目の増収:約3,030万円

シナリオB':在宅医療へのシフト(2年目以降、居宅1人対応へ昇格)(R9.6~)

  • 在宅薬学総合体制加算2(100点):患者10人 × 月2回訪問 = 2,000点 = 20,000円/月
  • 在宅薬学総合体制加算2(50点):患者15人 × 月4回訪問 = 3,000点 = 30,000円/月
  • 在宅患者訪問薬剤管理指導料:1回300点 × 月140回(30人×4~5回) = 420,000点 = 4,200,000円/月
  • 月間総収入:5,485,000円
  • 2年目の増収:約4,260万円

重要な注記:上記シミュレーションは「在宅医療への専従化」を想定しています。実際には、既存の外来処方箋とのバランスを取りながら、段階的に在宅患者を増やす戦略が現実的です。

かかりつけ薬剤師指導料の廃止と新たな対人業務評価体系

今回の改定で、2016年度に導入されて以来10年間の象徴的点数である「かかりつけ薬剤師指導料(76点)」と「かかりつけ薬剤師包括管理料(291点)」が廃止されます。この変更は、単なる点数の見直しではなく、「かかりつけ薬剤師の定義そのもの」を変えるものです。

何が廃止されるのか、何が新設されるのか

従来(R6) 廃止理由 改定後(R8.6~) 新しい位置づけ
かかりつけ薬剤師指導料
76点(独立した加算)
かかりつけ機能を「単一の点数」として扱う仕組みが古い 服薬管理指導料1の「イ」
(点数は未確定、45点程度と推定)
基本的な対面指導を評価
かかりつけ薬剤師包括管理料
291点(月1回など定期管理)
複数医療機関の医薬品を「包括的に管理」という概念が時代遅れ 廃止(新設加算で対応) 以下の加算で機能を分散
替わりに新設される加算(かかりつけ薬剤師のみが算定可能)
かかりつけ薬剤師フォローアップ加算 50点(3月に1回) 来局間隔が空く患者への電話等による継続的フォロー
かかりつけ薬剤師訪問加算 230点(6月に1回) 患者宅を訪問し、残薬整理・服薬管理指導を実施
服用薬剤調整支援料2(R9.6~) 1,000点(5年後の実装) 高度な研修を受けたかかりつけ薬剤師による減薬提案

「同意書廃止」による関係性の再構築

これまで、かかりつけ薬剤師の利用には「患者との同意書」が必須でした。しかし、改定後は同意書廃止となります。

従来のモデル(1:1の固定関係)

「患者と同意書を交わす」→「この患者のかかりつけ薬剤師は私」という固定的関係

→ 患者が転職や引越しで別の薬局に変わると、その時点で関係が終了

改定後のモデル(1:Nの流動的関係)

「同意書なし」→「その都度患者の同意を得ながら算定」

→ 薬局のすべての薬剤師が、その患者に対して「かかりつけ機能」を提供可能

→ 患者側も、複数の薬剤師から対応を受けることが可能に

新しいかかりつけ薬剤師の要件緩和と薬局の体制強化

要件 従来(R6) 改定後(R8.6~) 備考
薬剤師の週勤務時間 32時間以上 31時間以上(30分短縮) 育児・介護時短は週24時間以上、週4日以上に緩和
薬局在籍期間 継続して1年以上 6ヶ月以上(6ヶ月短縮) 産休・育休からの復職時に、休業前の期間を合算可能に
薬局の体制要件(新設) 存在しない 常勤薬剤師の平均在籍期間が1年以上 OR 管理薬剤師の在籍期間が3年以上 薬局全体の人員安定性が評価基準に

かかりつけ薬剤師フォローアップ加算(50点)の詳細

算定のポイント:

  • 対象患者:服薬管理指導料1のイ(かかりつけ薬剤師による指導)を算定している患者のうち、以下を算定している患者
    • 外来服薬支援料1
    • 服用薬剤調整支援料1・2
    • 調剤時残薬調整加算
    • 薬学的有害事象等防止加算
  • 算定条件:前回調剤後から次の処方箋を持参するまでの間に、電話等により服薬状況・残薬状況等の継続的な確認及び必要な指導を実施
  • 算定頻度:3月に1回に限る
  • 金額:処方箋1回当たり50点 = 500円の加算

経営インパクト(月1,000処方箋の薬局で、対象患者が200人の場合)

50点 × 200患者 = 10,000点 = 100,000円/月(年4回の計算なので月額約33,000円)

年間増収:約396,000円(月平均33,000円)

かかりつけ薬剤師訪問加算(230点)の詳細

算定のポイント:

  • 対象患者:服薬管理指導料1のイを算定している患者
  • 実施内容:患者宅を訪問し、残薬の整理、服用薬の管理方法の指導等を実施し、結果を保険医療機関に情報提供
  • 算定頻度:6月に1回に限る
  • 金額:処方箋1回当たり230点 = 2,300円の加算
  • 注意:在宅患者訪問薬剤管理指導料や外来服薬支援料1と併算定不可

経営インパクト(月1,000処方箋の薬局で、対象患者が50人の場合)

230点 × 50患者 = 11,500点 = 115,000円/月(年2回の計算なので月額約19,200円)

年間増収:約230,000円(月平均19,200円)

かかりつけ機能を「選別の道」から「選別を超えた道」へ:実装戦略

これまで、かかりつけ薬剤師は「限定的な患者向けの加算」でした。同意書を交わした患者に限定され、その数も限られていました。

しかし、改定後は「同意書なし&複数薬剤師対応可」となり、事実上「すべての来局患者に対するサービス」に転換します。

4つの新しい対人業務機会

業務 点数 患者数の想定増加 導入の優先度
服薬管理指導料1イ(かかりつけ薬剤師による基本指導) 45点程度(推定) すべての再来患者に拡大可能 最優先(スタッフの集合研修で対応)
かかりつけ薬剤師フォローアップ加算 50点/3月に1回 電話対応が可能な患者に拡大 高優先(電話システム整備必須)
かかりつけ薬剤師訪問加算 230点/6月に1回 訪問が可能な近隣患者に限定 中優先(訪問スタッフの確保が課題)
服用薬剤調整支援料2(R9.6~) 1,000点(1回) 高度な専門性を持つ薬剤師のみ 低優先(研修プログラム整備待ち)

6月施行に向けた実装ロードマップ:在宅・かかりつけ機能の準備

フェーズ1:現状把握と目標設定(2月27日~3月31日)

実施項目 具体的な手続き 期限
在宅患者の現状数を把握 レセコンから在宅患者訪問薬剤管理指導料の算定患者数を抽出 3月中旬
かかりつけ機能対象患者数の把握 同意書を交わしている患者数、および同意書がなくても対応可能な患者層を把握 3月中旬
在宅医療への経営シミュレーション 上記で示した「シナリオA・B・B'」に自局データを当てはめ、1年・2年後の増収見通しを算出 3月末
スタッフ能力の評価 かかりつけ薬剤師要件を満たす薬剤師数、在宅訪問が可能な薬剤師数を把握 3月末

フェーズ2:体制整備と職員教育(4月~5月中旬)

実施項目 内容 期限
かかりつけ薬剤師の新要件への対応 現在同意書を交わしている患者へ、「新体系への移行」を説明。同意書廃止のメリット(複数薬剤師対応可)を周知 4月中
フォローアップ加算の運用準備 電話対応システムの導入。スタッフのトレーニング(患者への電話での指導方法等) 4月末
訪問加算の運用準備 訪問スタッフの配置決定。訪問ルート・時間管理の仕組み構築。訪問薬剤師の賠償保険確認 4月末
在宅患者の受け入れ計画策定 月何人の新規在宅患者を受け入れるか、目標設定。医療機関・介護施設との連携構築開始 5月中旬
全スタッフへの研修実施 新しい対人業務評価体系(フォローアップ・訪問加算等)についての全職員研修 5月中旬

フェーズ3:最終確認と施行準備(5月16日~5月31日)

実施項目 内容 期限
レセコン新点数への切り替え確認 在宅薬学総合体制加算、かかりつけ加算の新点数・新区分が正しく反映されることを確認 5月末
届出書の提出状況確認 在宅薬学総合体制加算の要件(実績24回以上)を満たすことを確認。必要に応じて追加対応 5月末
患者向け説明資料の準備 「かかりつけ薬剤師の新しい役割」「訪問加算について」等のチラシを作成・印刷 5月末
スタッフへの最終確認 6月1日の新点数運用開始に向けた、スタッフへのチェックリスト確認 5月末

次回予告

次回の第4回では、調剤管理料の大幅簡素化(4区分→2区分)と、対物業務の効率化を通じた「対人業務への時間配分シフト」について解説します。同時に、DX(デジタルトランスフォーメーション)ツールの活用により、限られた人員で高度な対人業務を実施するための戦略を提示します。


【参考資料】

  • 厚生労働省(2026年2月13日)「令和8年度診療報酬改定答申」
  • 厚生労働省「別紙1-3 調剤報酬点数表」
  • 薬局のアンテナ「かかりつけ薬剤師指導料は廃止!」(2026年2月)

本記事は、2026年2月27日時点の公開情報に基づき作成しています。詳細は、厚生労働省の正式な告示・通知をご確認ください。

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