急性期病院の役割強化と働く環境の改善─入院基本料の大幅引き上げと新しい評価体系

2026年2月24日火曜日

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急性期病院の役割強化と働く環境の改善─入院基本料の大幅引き上げと新しい評価体系【第4回】

はじめに

前回までの3回で、改定の全体像、基本方針、職員の待遇改善について解説してきました。第4回では、急性期病院で働く医療従事者にとって最も身近な改定内容に焦点を当てます。

それは「入院基本料の大幅な引き上げ」です。急性期病棟の入院基本料が100点を超える大幅な引き上げを受けることは、病院全体の経営に大きな影響を与えます。同時に、「身体的拘束の最小化」「医療DXの推進」「医療安全対策の強化」など、質的な評価も厳しくなります。本記事では、これらの改定内容を、急性期病院で働く皆様の視点から分かりやすく解説します。


急性期病棟の入院基本料:大幅な引き上げの詳細

従来の「急性期一般入院基本料」から新しい体系へ

令和8年度改定では、急性期病棟の評価体系が大きく変わります。従来の「急性期一般入院基本料」から、「急性期病院A・B」という新しい体系が導入されます。

この背景にあるのは、「医療機関の機能分化」という考え方です。つまり、「全ての急性期病院が同じ役割を果たすのではなく、それぞれの病院が自分たちの機能を明確にして、その機能に特化すべき」という考え方です。

新しい入院基本料の体系と点数

まず、従来の「急性期一般入院基本料」の引き上げを見てみましょう。

入院基本料区分 現行点数 改定後 増加点数 増加率
急性期一般1 1,688点 1,874点 186点 +11.0%
急性期一般2 1,644点 1,779点 135点 +8.2%
急性期一般3 1,569点 1,704点 135点 +8.6%
急性期一般4 1,462点 1,597点 135点 +9.2%
急性期一般5 1,451点 1,575点 124点 +8.5%
急性期一般6 1,404点 1,523点 119点 +8.5%

ご覧のように、急性期一般1では186点(1,860円)の大幅な引き上げが行われています。これは改定のプラス幅全体(本体3.09%)を大きく上回る引き上げ率です。

新設される「急性期病院A・B」の点数

さらに重要なのが、新たに設置される「急性期病院一般入院基本料A・B」です。

🏥 新設:急性期病院一般入院基本料

  • 急性期病院A一般入院基本料:1,930点
  • 急性期病院B一般入院基本料:1,643点

急性期病院Aの1,930点は、従来の急性期一般1(改定後1,874点)よりもさらに56点高い設定です。これは、「より高度な医療を提供する急性期病院」として位置付けられることを意味します。

具体的な経営影響:100床急性期病棟の場合

100床の急性期一般1病棟を保有する病院で、改定による増収がどの程度になるかを計算してみましょう。

前提条件

  • 100床の急性期一般1病棟
  • 平均稼働率:85%
  • 月間稼働日数:20日

増収額の計算

📊 100床急性期病棟の月間増収

  • 入院基本料の増加:186点/日
  • 計算式:186点 × 100床 × 0.85(稼働率) × 20日
  • = 186点 × 1,700患者日
  • = 316,200点
  • 月間増収:316,200点 × 10円 = 316万2千円
  • 年間増収:316万2千円 × 12ヶ月 = 3,794万4千円

つまり、100床の急性期病棟一つで、年間約3,800万円の増収が見込めるということです。これは、月給30万円の看護師約11人分に相当します。


看護職員配置基準の見直しと看護必要度基準の変更

「重症度、医療・看護必要度」の基準値変更

入院基本料の引き上げと同時に、病棟の質的要件である「重症度、医療・看護必要度」の基準値も見直されます。

急性期一般入院基本料各区分では、以下のような基準値が設定されます。

区分 割合1 割合2
急性期一般1 27%以上 34%以上
急性期一般2 20%以上 28%以上
急性期一般3 14%以上 24%以上

この基準値により、各病棟が「どの程度の重症患者を受け入れるのか」が厳密に定義されます。逆に言えば、「基準値を満たしていない病棟は、より低い基本料の区分に変更される」ことを意味します。

看護職員配置基準の柔軟化

一方で、看護職員の確保が難しい現実を踏まえて、配置基準の一部柔軟化も行われます。

具体的には、ICT(情報通信技術)を活用して業務効率化を実現する医療機関では、看護職員配置の一部を「看護補助者や医師事務作業補助者」で代替することが、限定的に認められるようになります。

💡 看護職員配置柔軟化の条件

  • ICT利活用による業務効率化が実証されていること
  • 看護補助者の適切な研修が実施されていること
  • 看護職員の勤務時間が適切に管理されていること
  • 患者の安全性が確保されていること

これにより、「看護師が確保できないから急性期病棟を閉鎖する」という事態を、ある程度防ぐことが可能になります。


身体的拘束の最小化:質の強化と減算規定の明確化

「体制」と「実績」の二層構造による評価

令和8年度改定で最も注目される質的要件の一つが、「身体的拘束の最小化」です。

これまで身体的拘束を行わない努力は求められていましたが、令和8年度改定では、より明確で厳格な基準が設定されます。

特に重要なのが、減算規定が「体制」と「実績」の二層で評価されることです。

⚠️ 身体的拘束に関する減算規定

  • 体制が整備されていない・実績もない場合:40点/日の減算
  • 体制は整備されているが、実績基準を満たさない場合:20点/日の減算
  • 両方を満たす場合:減算なし

「体制」として求められる要件

「体制」として具体的に求められるのは、以下のような点です。

  • 身体的拘束最小化チームの設置:医師と看護職員からなる専任チーム(薬剤師など他職種も参加することが望ましい)
  • 身体的拘束最小化指針の作成:「鎮静を目的とした薬物の適正使用」などを含む指針
  • 職員研修の実施:定期的な研修を全職員に実施
  • 身体的拘束の記録:拘束の態様、時間、理由などを明確に記録
  • 組織風土の醸成:院長などのリーダーシップの下、全職員で拘束最小化に取り組む

「実績」として求められる要件

「実績」を満たすには、以下のいずれかを達成する必要があります。

✅ 実績基準を満たすための条件(いずれかを達成)

  • 条件A:身体的拘束の実施割合が15%以下
    直近3ヶ月の入院患者日数に対して、身体的拘束を実施した日数が15%以下
  • 条件B:身体的拘束原則廃止への具体的取り組み
    3ヶ月に1回以上の拘束最小化委員会開催、病棟巡回による具体的検討、年2回以上の職員研修など、組織全体で廃止に向けた取り組みを実施

具体的な経営影響

身体的拘束の減算は、入院基本料に対して直接かかるため、経営への影響は大きいです。

💰 100床急性期病棟における減算の影響

  • 体制・実績基準未達の場合:40点/日 × 100床 × 20日 = 80,000点/月(80万円)
  • 年間減損額:80万円 × 12ヶ月 = 約960万円

つまり、身体的拘束最小化の基準をクリアしないだけで、年間約1,000万円近くの減収になるわけです。この金額は、入院基本料の引き上げによる増収を大きく相殺する規模です。

身体的拘束最小化推進体制加算の新設

一方で、身体的拘束の最小化に組織的に取り組む医療機関には、新たな加算が設置されます。

加算名 点数 対象病棟
身体的拘束最小化推進体制加算 40点/日 地域包括ケア病棟、療養病棟、障害者施設等

現在のところ、この加算の対象は急性期病棟ではありませんが、将来的に急性期病棟にも拡大される可能性は高いと考えられます。


医療DXと「電子的診療情報連携体制整備加算」

医療DXが診療報酬で本格的に評価される時代へ

第2回でも触れた「医療DX」ですが、令和8年度改定では、初めて診療報酬で具体的に評価される形になります。

その中心となるのが「電子的診療情報連携体制整備加算」です。

電子的診療情報連携体制整備加算とは

この加算は、複数の医療機関や薬局が、患者の診療情報をデジタル技術で共有できる体制を構築した施設に対して付与される加算です。

🔗 電子的診療情報連携体制整備加算の概要

  • 目的:患者の医療情報をデジタル化し、複数の医療機関・薬局で共有することで、重複診療や不適切な処方を防ぎ、医療の質を向上させる
  • 対象:初診、再診、訪問診療など、外来・在宅医療を実施している全ての医療機関
  • 加算点数:初診時に数点程度(詳細は3月の告示待ち)

医療DX投資の必要性

この加算を取得するには、以下のような投資と対応が必要になります。

  • 電子カルテシステムの導入・更新:他の医療機関と相互運用可能なシステムが必須
  • ネットワークインフラの構築:セキュアな通信環境の整備
  • サイバーセキュリティ対策:患者情報保護のための高度なセキュリティ
  • 職員研修:新しいシステムの操作方法や情報セキュリティに関する教育

初期投資と回収期間

医療DXに必要な初期投資は相応に大きいものになります。

💰 医療DX導入に必要な費用(概算)

  • 電子カルテシステムの導入・更新:数千万円~数億円
  • ネットワークインフラ構築:数百万円
  • サイバーセキュリティ対策:数百万円
  • 職員研修・運用サポート:数百万円
  • 総額:数千万円~数億円

この投資を診療報酬で回収するには、10年以上の長期的視点が必要です。したがって、中小規模の医療機関では、政府の補助金制度を活用することが重要になります。


医療安全対策加算の大幅増点

医療安全の強化が高く評価される改定

もう一つの重要な加算が「医療安全対策加算」です。この加算の点数が大幅に増点されます。

加算区分 現行点数 改定後 増加
医療安全対策加算1 85点 160点 +75点
医療安全対策加算2 30点 70点 +40点

医療安全対策加算1は、なんと88%の増点です。これは、「医療安全対策を実施することは、単なるコンプライアンスではなく、診療報酬として評価される重要な取り組み」であることを示しています。

具体的な要件

医療安全対策加算の取得には、以下のような要件を満たす必要があります。

✅ 医療安全対策加算の要件

  • 医療安全対策委員会を定期的に開催(月1回以上)
  • 医療安全対策経験3年以上の専任医師を配置
  • 医療安全・感染対策を含む職員研修を実施
  • 医療事故の分析と防止策の検討
  • 医療事故発生時の報告体制の整備

100床病院における経営効果

💰 医療安全対策加算1取得による増収

  • 増加分:75点/日
  • 計算:75点 × 100床 × 0.85 × 20日 = 127,500点/月
  • 月間増収:127,500点 × 10円 = 127万5千円
  • 年間増収:127万5千円 × 12ヶ月 = 約1,530万円

つまり、医療安全対策加算を取得するだけで、年間1,500万円以上の追加増収が期待できるわけです。


看護職員と医療職員にとっての具体的な影響

【看護職員の皆様へ】

入院基本料の大幅な引き上げと、各種加算の増点は、最終的には看護職員の処遇改善に反映される可能性が高いです。

同時に、以下の点に注意が必要です。

  • 身体的拘束最小化への参加:拘束最小化チームの構成員として、具体的な取り組みに参加することが求められる
  • 医療DXへの対応:電子カルテシステムなど、新しいICTツールへの習熟が必須
  • 看護必要度基準の達成:病棟の看護必要度が基準値を満たしていなければ、基本料の減算対象になる

【病院経営者・管理職の皆様へ】

以下の項目について、4月中の準備が急務です。

📋 4月までの準備事項

  • 身体的拘束最小化チームの設置と役割分担の決定
  • 身体的拘束最小化指針の改定・作成
  • 電子的診療情報連携への参加判断と投資計画
  • 医療安全対策の強化ポイント確認
  • 看護必要度基準値の達成状況確認と対策
  • 職員の配置計画と研修スケジュール

よくある質問への回答

Q1:身体的拘束の実施割合15%の基準は厳しくないか?

A:現在、多くの急性期病院でこの基準をクリアしています。15%は「非常に厳格」ではなく、「組織的に拘束最小化に取り組んでいれば達成可能」なレベルです。むしろ、「取り組みをしていない」医療機関が基準をクリアできない可能性が高いです。

Q2:医療DXの投資をしなければならないのか?

A:法的な義務ではありませんが、診療報酬上で評価される加算を取得できず、競争上の不利が生じます。また、政府は複数の補助金制度を準備しており、小規模医療機関でも活用可能な仕組みが整備されています。中長期的には、医療DXは「選択肢ではなく必須」になると予想されます。

Q3:入院基本料の引き上げは確定的か?

A:2月13日の中医協答申で確定しました。3月5日予定の厚生労働省告示で正式決定され、6月1日施行となります。変更される可能性はほぼありません。

Q4:看護必要度の基準値が高くなったのはなぜか?

A:入院基本料の大幅な引き上げに伴い、診療報酬を得るための「質的要件」をより厳格にすることで、診療報酬の「正当性」を確保するためです。つまり、「より重症度の高い患者を受け入れる病棟が、より高い報酬を得る」という仕組みにすることで、医療資源の最適配置を実現しようとしています。

Q5:6月施行までに準備が間に合わない場合はどうなるのか?

A:身体的拘束最小化の「実績基準」については、2027年5月31日までの経過措置が設けられています。つまり、まず「体制」を整えることを優先し、「実績」については1年間の猶予があります。ただし、この期間に実績基準をクリアすることが強く期待されています。


次回予告

第4回では、急性期病院における改定の核となる「入院基本料の大幅引き上げ」と「質的要件の厳格化」について解説してきました。

次回の第5回は、改定シリーズの最終回となります。以下の内容をお届けする予定です。

📌 第5回(最終回)の予告内容

  • 改定の総括と医療機関が押さえるべき重要ポイント
  • 6月施行に向けた最終チェックリスト
  • 診療所・有床診療所・中小病院での対応ポイント
  • 読者からのよくある質問への総合回答
  • 2027年度改定への見通しと長期的戦略

令和8年度診療報酬改定について、包括的な理解を深めるための最終回となります。


※この記事は2026年2月23日現在の情報に基づいています。診療報酬改定の詳細については、厚生労働省公式サイトをご参照ください。

※身体的拘束の最小化に関する具体的な基準値(15%など)は、3月5日予定の告示・通知で正式決定されます。本記事の数値は現時点での情報に基づいていますが、最終的な基準値と異なる可能性があります。

※医療安全対策加算などの具体的な要件については、告示・通知の公開を待った上で、改めて詳細を確認することをお勧めします。

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