調剤基本料転落と地域支援加算の新体系─「後発医薬品85%」という新しい参加資格【後編】
公開日:2026年2月26日
前回の第1回では、調剤基本料の改定による「経営格差の拡大」について解説しました。今回は、その格差を埋める可能性のある「地域支援・医薬品供給対応体制加算」の新体系と、その参加資格となる「後発医薬品85%」という新しいハードルについて、詳細に解説します。同時に、ベースアップ評価料による職員処遇改善の具体的シミュレーションも行います。
地域支援・医薬品供給対応体制加算の大改編:5区分への再構成
今回の改定で最も複雑かつ重要な変更が、この加算の統合と再編です。従来の「地域支援体制加算」と「後発医薬品調剤体制加算」が廃止され、新たに5つの区分を持つ「地域支援・医薬品供給対応体制加算」へ一本化されました。
背景:2つの加算が統合される理由
これまで、薬局は「地域支援の実績」と「後発医薬品使用割合」の2つの要件を別々に管理していました。しかし、国は今回の改定で「後発医薬品の使用を地域支援の前提条件」と位置づけることにしました。つまり、地域密着型の薬局であっても、ジェネリック医薬品への取り組みが不十分では、地域支援加算の対象にはならないということです。
国が求めるメッセージ:
「地域貢献と後発医薬品の使用促進は、セットで実行する義務」
新体系の5区分構成
| 区分 | 新点数 | 旧体系との関係 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| 加算1 | 27点 | 後発医薬品調剤体制加算1(32点)を統合 | 医薬品の安定供給体制 + 後発医薬品85%以上が必須要件 |
| 加算2 | 59点 | 地域支援体制加算2(40点)を高度化 | 加算1の要件 + 調剤基本料1 + 地域医療への貢献体制・実績 |
| 加算3 | 67点 | 新設(旧体系では最高が加算2の40点) | 加算2の要件 + 地域医療への貢献で「相当の実績」(より高いハードル) |
| 加算4 | 37点 | 新設(基本料1以外の薬局向け) | 加算1の要件 + 基本料1以外 + 地域医療への貢献体制・実績 |
| 加算5 | 59点 | 新設(基本料1以外向けの最高区分) | 加算4の要件 + 地域医療への貢献で「相当の実績」 |
注目:旧体系では地域支援体制加算1が32点でしたが、新しい加算1は27点と▲5点の減点です。これは「後発医薬品85%という参加資格の厳格化」を意味しています。
「後発医薬品85%」─新しい参加資格としての「ジェネリック精度」
今回の改定の最大の転換点は、加算1のすべての区分において、「後発医薬品の使用割合85%以上が必須要件」となったことです。
従来との大きな違い
| 要件 | 従来(R6年度) | 改定後(R8.6~) | 意味 |
|---|---|---|---|
| 後発医薬品加算1 | 割合80%以上 | 廃止 | 単独の加算として消滅 |
| 地域支援体制加算 | 後発品割合の制限なし | 加算1では85%以上が必須 | 地域支援の前提条件に厳格化 |
| 結論 | 後発品80%で後発医薬品加算+地域支援加算の両方取得可能 | 後発品85%未満では地域支援加算すべて不可 | 「85%超」が薬局の必須達成指標に昇格 |
経営インパクト(具体例:月1,000処方箋の薬局)
現状(R6年度):後発医薬品割合80%の場合
- 後発医薬品調剤体制加算1:32点 × 1,000処方箋 = 32,000点 = 320,000円/月
- 地域支援体制加算(実績要件満たすと仮定):32点 × 1,000処方箋 = 32,000点 = 320,000円/月
- 月間加算収入:640,000円
改定後(R8.6~):後発医薬品割合80%のまま変わらない場合
- 加算1の対象外(85%未満は地域支援加算すべて不可):0円
- 月間加算収入:0円
- 月間減収:640,000円 ≈ 年間768万円
改定後(R8.6~):85%に引き上げた場合
- 地域支援・医薬品供給対応体制加算1(実績要件未達):27点 × 1,000処方箋 = 27,000点 = 270,000円/月
- 月間加算収入:270,000円
- 月間減収:370,000円 ≈ 年間444万円
改定後(R8.6~):85%に引き上げ、実績要件も満たす場合
- 加算2以上(調剤基本料1を前提とすると仮定):59点 × 1,000処方箋 = 59,000点 = 590,000円/月
- 月間加算収入:590,000円
- 従来との差:▲50,000円/月 ≈ 年間▲60万円
「85%の壁」を超えられない薬局の実態
後発医薬品の使用割合が85%に満たない薬局は、どのような理由が考えられるでしょうか。
- 患者要望:高齢者中心の薬局では、患者が「先発医薬品を希望」するケースが多い
- 医師の処方:特定の先発医薬品を指定する医師からの処方が多い
- 医学的理由:後発医薬品で副作用が出た患者に対する先発医薬品への変更
- 供給上の理由:後発医薬品の品質問題や出荷停止による在庫不足
- 採算性の問題:低採算の後発医薬品よりも、新薬や先発医薬品の利益率が高いと判断する経営判断
重要な経過措置:2026年3月31日時点で「後発医薬品調剤体制加算」を届け出ている薬局は、2027年5月31日まで後発品使用率要件を満たすものとみなされます。つまり、この期間内に85%まで引き上げることができれば、経営的なダメージを軽減できる可能性があります。
調剤ベースアップ評価料:職員処遇改善の「原資」としての4点
改定率3.09%の内、1.70%が「ベースアップ対応」に充てられるという話を聞きますが、調剤薬局では具体的にどのような形で職員へ還元されるのでしょうか。
調剤ベースアップ評価料の仕組み
| 項目 | 内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 点数(R8.6~R9.5) | 4点 / 処方箋受付1回 | 1点 = 10円なので、1処方箋につき40円の加算 |
| 点数(R9.6以降) | 8点 / 処方箋受付1回 | 2倍に増加。さらなる賃上げ原資となる |
| 充当対象 | 職員の賃金改善のみ | 実装経営や設備投資には使用不可 |
| 対象職員 | 薬剤師、事務職、管理薬剤師など全職員 | R6改定の病院・診療所では対象が限定されていた。薬局はより広範 |
| 届出要件 | 計画書の提出と実績報告が必須 | 「賃上げします」という宣言だけでは算定不可 |
具体的な処遇改善シミュレーション
例1:50人/日の小規模薬局(月間処方箋2,500枚)
R8.6~R9.5(4点の場合):
- 4点 × 2,500処方箋 = 10,000点 = 100,000円/月 = 1,200,000円/年
- 薬剤師5名で按分すると、1人当たり年間240,000円 ≈ 月額20,000円の上乗せが可能
R9.6以降(8点の場合):
- 8点 × 2,500処方箋 = 20,000点 = 200,000円/月 = 2,400,000円/年
- 薬剤師5名で按分すると、1人当たり年間480,000円 ≈ 月額40,000円の上乗せが可能
例2:100人/日の中規模薬局(月間処方箋5,000枚)
R8.6~R9.5:
- 4点 × 5,000処方箋 = 20,000点 = 200,000円/月 = 2,400,000円/年
- 薬剤師10名 + 事務3名で按分すると、薬剤師1人当たり年間184,000円 ≈ 月額15,300円の上乗せ
R9.6以降:
- 8点 × 5,000処方箋 = 40,000点 = 400,000円/月 = 4,800,000円/年
- 月額30,600円の上乗せが可能に
届出の実務上のポイント
調剤ベースアップ評価料を算定するためには、以下のステップを踏む必要があります。
- 5月末までに厚生労働省・地方厚生局に届出
- 薬局として「職員の賃金改善計画」を提出
- どの職種にいくら引き上げるかを明記する必要がある
- 6月1日から算定開始
- 届出後、即座に新点数4点での算定が開始される
- レセコン設定の確認が重要
- 実績報告(年1~2回)
- 実際にいくら賃金を上げたか、給与明細等で証明する
- 虚偽報告は返還請求の対象に
基本料転落のリスク評価:6月まで残された対策期間の活用
第1回で解説した「集中率85%超」による基本料2への転落、そして今回の「後発医薬品85%未満」による地域支援加算の喪失という2つのリスクに同時に直面する薬局が少なくありません。
リスク診断フロー
Q1:月間処方箋受付回数は1,800回以上か?
- YES → Q2へ進む
- NO → リスク低い。現状維持で問題なし
Q2:特定医療機関への集中率は85%以上か?
- YES → 「基本料2転落リスク」あり(第1回参照)
- NO → 基本料1維持の可能性あり
Q3:後発医薬品の使用割合は85%以上か?
- YES → 地域支援加算の対象となる可能性あり
- NO → 「地域支援加算喪失リスク」あり(本号参照)
4パターンの経営シナリオ
| 基本料 | 後発品% | 経営ステータス | 対策の優先度 |
|---|---|---|---|
| 基本料1維持 | 85%以上 | 「勝者」。加算2~3の対象となる可能性あり | 実績要件クリアに注力 |
| 基本料1維持 | 85%未満 | 基本料は守ったが、地域支援加算が消滅する可能性大 | 「急務」。85%引き上げまで3~4ヶ月が勝負 |
| 基本料2へ転落 | 85%以上 | 加算4での対応を検討。ただし基本料の落差が大きい | 「急務」。地域支援加算で最大59点で補填 |
| 基本料2へ転落 | 85%未満 | 「敗者」。二重苦の状況。経営の根本的な見直しが必要 | 「超急務」。事業継続の可否を判断する段階 |
後発医薬品85%を目指すための現実的な対策
「85%は難しい」と諦めるのではなく、3~4ヶ月で実現可能な具体的なアクションを示します。
対策①:患者向け説明の強化
実施内容:
- 店頭掲示:「当薬局は後発医薬品を積極的に使用しています」というポスターを視認性の高い場所に掲示
- お会計時の説明:先発医薬品と後発医薬品の価格差を具体的に示し、「月間の医療費が○○円節約できます」という メリットを伝える
- 患者向けパンフレット:「後発医薬品について」という1枚もの を作成し、配布
- 薬剤師からの個別説明:「この薬は先発医薬品と同じ成分で、厚生労働省の認可を受けています」という医学的根拠を示す
対策②:医師・診療所との連携強化
実施内容:
- 処方医への報告:「当薬局の後発医薬品使用率は○%です。地域医療への貢献を目指し、85%を目標に取り組んでいます」というレターを送付
- 先発指定の理由確認:「先発医薬品指定」の処方があった際、「医学的理由」なのか「単なる習慣」なのかを確認。習慣の場合は変更提案
- 定期ミーティング:門前の診療所と定期的に面談し、「当薬局の医薬品供給体制」について説明する
対策③:レセコン・在庫管理システムの活用
実施内容:
- 自動代替機能:レセコンに「後発医薬品への自動代替」機能を設定(患者の同意を得た上で)
- 在庫管理:後発医薬品の品切れを減らすため、単品単価交渉で仕入れコストを削減し、在庫回転を高める
- 日次監視:各日の後発品使用率を監視し、85%を下回った日があれば、その原因を分析
対策④:供給上の問題への対応
実施内容:
- 卸との連携:「供給が不安定な後発医薬品」について、卸に対して「代替可能な同等の後発医薬品」の情報提供を依頼
- 複数メーカー品の確保:同一成分の後発医薬品でも、複数のメーカーから仕入れることで、供給リスクを分散
- 患者への事前説明:「この成分の後発医薬品が品切れの場合、別のメーカーの後発医薬品(同じ効果)を調剤することがあります」という事前了解を取る
実装スケジュール:6月施行に向けた3段階の準備
残された時間は限られています。以下のスケジュールに従い、実装を急ぎましょう。
フェーズ1:現状把握と目標設定(2月26日~3月15日)
| 実施項目 | 担当者 | 具体的な手続き |
|---|---|---|
| 過去12ヶ月の集中率・処方箋数を集計 | 事務・管理薬剤師 | レセコンから月別データを抽出。グラフ化して経営者へ報告 |
| 後発品使用率の月別推移を確認 | 事務・管理薬剤師 | 現在の使用率が85%に達するまで、あと何%必要かを計算 |
| 基本料転落のリスク評価 | 経営者・管理薬剤師 | 前回の診断フロー(Q1~Q3)を実施し、リスクレベルを判定 |
| ベースアップ評価料の申請準備 | 経営者・事務 | 職員の賃金改善計画案を作成。各職員への事前説明を開始 |
フェーズ2:対策実装と職員教育(3月16日~5月15日)
| 実施項目 | 実施内容 | 実施完了時期 |
|---|---|---|
| 患者向け掲示・説明資料の設置 | ポスター、パンフレットの店頭掲示開始 | 3月中 |
| 医師との面談・協力要請 | 門前医療機関の医師に対し、後発品使用率向上への協力を要請 | 4月中 |
| レセコン設定の確認・変更 | レセコンの後発品自動代替機能を有効化。日次監視体制を整備 | 4月末 |
| スタッフへの教育・訓練 | 全職員に対し、後発品の利点・説明方法について研修を実施 | 4月中 |
| ベースアップ評価料の届出書作成 | 職員の給与改善計画書を完成させ、厚生労働省・地方厚生局への提出準備 | 5月中旬 |
フェーズ3:最終確認と施行準備(5月16日~5月31日)
| 実施項目 | 内容 | 期限 |
|---|---|---|
| ベースアップ評価料の正式届出 | 計画書を地方厚生局に郵送・e-Gov で提出 | 5月末 |
| レセコンの新点数への切り替え確認 | レセコン業者に依頼し、6月1日の新点数・新区分が正しく反映されることを確認 | 5月末 |
| 後発品使用率の最終確認 | 5月末時点での使用率が85%に達しているか確認 | 5月末 |
| 全職員への説明会開催 | 6月1日の新点数・新区分・賃上げ内容について、全職員へ説明 | 5月末 |
次回予告
次回の第3回では、在宅医療への経営シフトと、かかりつけ薬剤師機能の強化について解説します。基本料転落や加算喪失のリスクを回避するための「もう一つの道」として、在宅医療への積極的な展開がいかに重要か、そして実装のハードルを詳しく分析します。
【参考資料】
- 厚生労働省(2026年2月13日)「令和8年度診療報酬改定答申」
- 厚生労働省「別紙1-3 調剤報酬点数表」
- 薬局のアンテナ「地域支援・医薬品供給対応体制加算の解説」(2026年2月)
本記事は、2026年2月26日時点の公開情報に基づき作成しています。詳細は、厚生労働省の正式な告示・通知をご確認ください。

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