訪問薬剤管理医師同時指導料(2026年改定版)
背景・基本方針
2026年度調剤報酬改定では、在宅医療における医師と薬剤師の「協働」関係を新たに評価する施策が複数創設されます。その中で最も注目される改定は、「訪問薬剤管理医師同時指導料(150点、6月に1回限定)」の新設です。
これまで在宅医療の現場では、医師による訪問診療と薬剤師による訪問薬剤管理指導がそれぞれ独立して実施されてきました。しかし今改定では、「医師と薬剤師が同時に患家を訪問し、その場で処方を見直し、患者・家族への指導を行う」という形態を評価する新加算が設けられました。これはポリファーマシー(多剤併用)対策と残薬対策を、多職種の即時的な協働により実現することを目指したものです。
訪問薬剤管理医師同時指導料の概要
点数体系
150点(6月に1回限定)
算定対象:医師と同時に患家を訪問した場合
対象患者:在宅患者訪問薬剤管理指導料または在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料を算定している患者
医科側との対応点数
| 医科側 | 薬局側 | 算定期間 | 趣旨 |
|---|---|---|---|
| 訪問診療薬剤師同時指導料 300点 |
訪問薬剤管理医師同時指導料 150点 |
6月に1回限定 | 医師と薬剤師が同時訪問し、その場で処方見直し・指導を実施した場合、双方で評価 |
算定要件(3つのポイント)
要件1:対象患者
訪問薬剤管理医師同時指導料を算定できる患者は、以下のいずれかに該当する在宅患者です:
- 定期的な在宅訪問薬剤管理指導を受けている患者
在宅患者訪問薬剤管理指導料(1・2・3のいずれか)を算定している患者。医師の訪問診療と薬剤師の訪問薬剤管理指導が並行して行われている患者が対象です。 - 緊急時の訪問薬剤管理指導を受けている患者
在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料(1・2のいずれか)を算定している患者。急変時に薬学的な介入が必要と判断された患者です。
注記:施設入居患者(特別養護老人ホーム、有料老人ホーム等)は対象外。個人宅の患者が対象です。
要件2:医師との「同時訪問」
最重要ポイント:医師と薬剤師が同一日時に患家を訪問することが必須です。
- 同一患家への訪問:別々の患者ではなく、同じ患者宅を医師と薬剤師が同時(同日、かつ可能な限り同時刻)に訪問すること
- 患者・家族の同意:医師と薬剤師の同時訪問が行われることについて、患者または家族から事前の同意を得ておくこと。説明書面の作成と署名が重要
- 訪問看護との関係:訪問看護がこの患者に介入している場合は、訪問看護ステーションにも事前に通知。医師・薬剤師・看護の3者での情報共有が理想的
要件3:同時訪問時の指導実施
同時訪問の場において、以下の指導が実施されていることが必須です:
- 服薬状況の確認:実際に患者が何をどのくらい飲んでいるか、飲み残しはないか、副作用はないかを確認
- 残薬の評価:自宅にある医薬品の種類・量・使用期限を確認。不要な医薬品の整理
- 処方内容の見直し:医師が診察した結果と薬剤師の薬学的評価に基づき、その場で処方の重複や不適切な組み合わせを指摘。必要な場合は処方の削減・変更を医師に提案
- 患者・家族への説明:医師と薬剤師が協働で、「今のあなたの薬の飲み方について」「これからの処方変更について」を説明。一貫性のある情報提供が重要
- 記録:薬歴に「医師との同時訪問の実施日」「患者の服薬状況」「処方見直しの内容」「患者の反応」を詳細に記載
複数名薬剤管理指導訪問料との違い
新設された3つの同時訪問型加算
| 加算名 | 点数 | 対象 | 訪問者 | 算定期間 |
|---|---|---|---|---|
| 訪問薬剤管理医師同時指導料 | 150点 | 在宅患者訪問薬剤管理指導料・緊急訪問薬剤管理指導料算定患者 | 医師+薬剤師1名 | 6月に1回 |
| 複数名薬剤管理指導訪問料 | 300点 | 通院困難患者(医師の指示により複数名訪問が必要と判断) | 薬剤師2名以上 | 算定回数制限は未確定 |
| かかりつけ薬剤師訪問加算 | 230点 | 服薬管理指導料1-イ/1-ロ/2-イ算定患者 | 薬剤師1名 | 6月に1回 |
複数名薬剤管理指導訪問料との併算定の可否
重要:同じ患者に対して、同月内に「訪問薬剤管理医師同時指導料」と「複数名薬剤管理指導訪問料」を併算定することはできません。
理由:両加算とも「訪問」という行為を対象とした加算であり、同一患者・同一月での重複算定は保険診療の原則に反するため。
運用方法:患者ごとに「医師同時訪問が必要な患者」「複数薬剤師による指導が必要な患者」を事前に分類し、月単位で実施する加算を決定することが重要です。
実務上の重要ポイント
医師との事前打ち合わせの必要性
同時訪問を実現するには、医師(訪問診療医)との連携体制が不可欠です:
- 対象患者の選定:ポリファーマシーが重い患者、残薬が多い患者、処方整理の希望がある患者などを事前に医師と協議して選定
- 訪問スケジュール調整:医師の訪問診療スケジュールと薬剤師の訪問薬剤管理指導スケジュールを照合し、同日程の訪問を実現するための調整
- 訪問前の情報共有:薬剤師が事前に患者の服薬状況・残薬状況を把握し、医師にも情報を提供。医師も診察内容の方向性を薬剤師に伝達
- 訪問後の報告:同時訪問の結果(処方変更の内容、患者の反応等)を医師にフィードバック。電子カルテ連携があれば、その活用
150点(≒1,500円)の収益性評価
| 項目 | 薬局負担 | 備考 |
|---|---|---|
| 訪問薬剤管理医師同時指導料の加算 | +150点 = 1,500円/回 | 6月に1回のみ。薬剤師1名の訪問で算定 |
| 医師との訪問調整に要する事務費用 | 月額 5,000~10,000円程度 | 医師との打ち合わせ、スケジュール調整、報告書作成 |
| 訪問に要する人件費・移動費 | 訪問1回 3,000~5,000円程度 | 薬剤師給与(時間換算)+ ガソリン代 + 保険 |
| 採算性判定 | 1,500円 - 3,500円 = ▲2,000円 | 直接的には赤字。ただし臨床効果(減薬、副作用軽減)が患者満足度に寄与し、集患効果として評価される |
① 医師と同じ訪問日に複数の患者を訪問(医師が3~5人訪問するなら、薬剤師も3~5人訪問)
→ 移動費の効率化。時間当たりの採算性向上
② 医師との関係強化による他加算との併算定
→ 在宅患者訪問薬剤管理指導料(1:650点)+ 医師同時指導料(150点)= 800点/回
※通常訪問(別日)とは異なり、同日訪問の場合のみ150点を加算
③ 長期的な患者信頼構築
→ 医師と薬剤師が協働指導することで、患者の服薬フォローアップが強化される
→ 次月以降の「かかりつけ薬剤師フォローアップ加算」「残薬調整加算」の算定につながる可能性
導入の実務フロー
医師側との点数比較
| 実施主体 | 加算名 | 点数 | 算定期間 | 経営的インパクト |
|---|---|---|---|---|
| 医師(医科側) | 訪問診療薬剤師同時指導料 | 300点 | 6月に1回 | 医師側の収益:+3,000円/患者年1回(≒500円/月) |
| 薬剤師(薬局側) | 訪問薬剤管理医師同時指導料 | 150点 | 6月に1回 | 薬局側の収益:+1,500円/患者年1回(≒250円/月) |
| 合計 | 医療全体での評価:+450点/患者年1回 | 6月に1回 | 医療費増:+4,500円/患者年1回。ただしポリファーマシー削減による医療費抑制が期待される | |
税理士・経営アドバイス
重要な経営判断ポイント
1. 直接的採算性は限定的だが、臨床価値は高い
訪問薬剤管理医師同時指導料150点(1,500円)では、薬剤師の訪問費用を回収することが困難です。しかし、この加算の真の価値は「医師と薬剤師の協働によるポリファーマシー対策の実績」にあります。この実績が以下の効果をもたらします:
- 患者の処方数削減 → 医療費全体の抑制 → 保険診療全体での評価向上
- 患者・家族との信頼構築 → 薬局の「地域での信頼できる薬剤師」というブランド化
- 医師との関係強化 → 他の在宅加算(かかりつけ薬剤師訪問加算等)との組み合わせによる複合的な収益化
2. 医師との連携は「戦略的」に
全ての患者に医師同時訪問を実施する必要はありません。対象患者を以下のように絞り込むことが重要です:
- ポリファーマシーが重い患者(8種類以上の医薬品) → 削減余地が大きい
- 残薬が多い患者 → 医師も減薬に同意しやすい
- 医師と薬剤師のスケジュール調整がしやすい患者 → 効率的な実施が可能
- 患者の協力度が高い患者 → 処方変更に対する患者の不安が少ない
3. 他加算との組み合わせによる収益化
医師同時指導料150点だけでは採算が取れないため、以下の加算との組み合わせを検討してください:
- 在宅患者訪問薬剤管理指導料(650点) + 医師同時指導料(150点)= 800点
- かかりつけ薬剤師フォローアップ加算(50点)(同時訪問の3ヶ月後に電話フォロー)
- 調剤時残薬調整加算(50点)(医師の指示による減数調剤時)
- 薬学的有害事象等防止加算(医師同時訪問で検出された相互作用について疑義照会し、処方変更となった場合)
これらを組み合わせることで、年間患者当たり2,000~3,000点の複合的な加算が期待できます。
4. 医師との「win-win」関係の構築
医師側も同時訪問で300点の加算を獲得します。薬局側は、この連携を以下のように提案することで、医師のモチベーションを高めることができます:
- 「患者のポリファーマシー対策に協力いただきたい。薬局として処方見直しのデータを集計し、医師の診療品質向上の参考にしていただきたい」
- 「同時訪問を通じて、患者満足度が向上する。医師と薬剤師の協働イメージが患者に浸透する」
- 「緊急時対応の連携も強化される」
5. 給与・経営改善への還元
医師同時指導料の導入により、薬剤師の業務時間(訪問+医師との打ち合わせ+事前準備)が増加します。年間5~10患者で月100時間程度の追加業務が発生する可能性があります。この時間増を適切に給与に反映(手当等)することで、スタッフのモチベーション向上につながります。
参考資料・URL
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定の概要【調剤】」(2026年3月5日版)
- 厚生労働省「個別改定項目について」(令和8年2月13日)
- Note「医師と薬剤師の『同時訪問』が評価対象に」
- 在宅医療ラボ「2026年診療報酬改定答申|在宅医療・訪問診療への影響全まとめ」
- 日経DI「在宅薬学総合体制加算2は倍増の100点、個人宅訪問で」
- GemMed「連携型の機能強化型在支診、『自院の医師による往診』体制がない場合には点数を引き下げ」
まとめ
訪問薬剤管理医師同時指導料(150点)は、2026年改定における「在宅医療における医師と薬剤師の協働関係」を評価する象徴的な加算です。点数としては限定的(150点)ですが、この加算の導入により、以下の効果が期待できます:
- ポリファーマシー対策の実績化:医師と薬剤師が同時に患家を訪問し、その場で処方見直しを実施することで、実効性の高い多剤併用改善が実現
- 患者安全の向上:医師の診察と薬剤師の薬学的評価が同時に行われることで、医療安全が向上
- 医師との関係強化:定期的な同時訪問を通じて、医師と薬剤師の信頼関係が深化。他の在宅加算との組み合わせが容易に
- 複合的な収益化:150点だけでなく、他加算(訪問薬剤管理指導料650点、フォローアップ加算50点、残薬調整加算50点等)との組み合わせにより、患者当たり年2,000~3,000点の加算獲得が期待可能
ただし、成功のためには「医師との事前の十分な打ち合わせ」「対象患者の戦略的な選定」「薬歴での詳細な記録」が不可欠です。また、150点では直接的採算性が取れないため、「臨床価値」と「長期的な収益化戦略」の両面から判断することが重要です。2026年6月の施行から対応準備を進め、医師との連携体制をいち早く構築することをお勧めします。

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