特別調剤基本料A/B の見直し(2026年改定版)
改定の背景・基本方針
2026年度調剤報酬改定では、「かかりつけ薬剤師機能」推進の中核として、特定医療機関への過度な依存から脱却し、地域における「面分業」を本格化させることが重要方針です。特別調剤基本料A/B の見直しは、この目標を実現するための主要施策の一つです。
従来、特別調剤基本料A(5点)は、診療所と同一敷地内に立地する薬局や、地方部の医療機関が限定的な場所にある薬局に適用されていました。しかし医療モール内の複数診療所を経由した「集中率(特定医療機関からの処方箋の割合)」の操作や、都市部での薬局過剰配置を招く事例が指摘されてきました。
今改定では以下の3つの柱で再構成されます:①診療所同居の除外規定撤廃(オンライン診療施設対応)、②へき地薬局への特例拡大、③都市部での新規薬局密集抑制。
改定の主要変更点
1. 診療所併設除外規定の撤廃
【改定前】 診療所と同一敷地内に立地する薬局は、特別調剤基本料Aを適用しない(除外)。
【改定後】 同一敷地内の診療所でも、集中率50%超の場合は特別調剤基本料Aを算定可能に。
この見直しの狙いは、診療所併設薬局の「門前性」を緩和し、他医療機関からの処方箋受付を促進することです。ただし集中率50%超という要件は、医療モール内での分散を意識しており、実質的には「特定一医療機関への過度な依存を是正しつつ、診療所との連携を認める」という中道的アプローチです。
2. オンライン診療受診施設の位置づけ
新たにオンライン診療の受診施設が薬局と同一敷地内にある場合、その施設からの処方箋受付も集中率計算に含まれます。これはデジタル化推進と並行して、オンライン診療の拠点化を支援する施策です。
3. へき地薬局の特例拡大
新規則:4km以内に他の薬局がない地域
地方自治体が設置した診療所と同一敷地内にあり、かつ4km以内に他の薬局が存在しない場合、調剤基本料1(47点)を算定可能に。従来の「0.5km以内」要件が4kmに拡大されました。
これはへき地における医療・医薬品供給確保を優先する施策で、経営環境が厳しい地方部への配慮です。
4. 都市部新規薬局への減点導入
【新設】立地依存減算(−15点)
東京23区および政令指定都市(札幌、仙台、横浜、川崎、名古屋、京都、大阪、神戸、岡山、広島、福岡など)に開設された新規薬局のうち、以下いずれかに該当する場合:
- 200床以上の病院の敷地から100m以内
- 診療所等と同一敷地、または隣接地(50m以内)
- 処方箋集中率85%超&月間受付回数600回超
上記を満たす新規開設薬局は、調剤基本料から15点が減算される仕組みです。
この減点は「都市部への薬局過剰配置を抑止する」という政策的な狙いが明確です。多くの新規開設を検討している薬局チェーン等にとっては、採算性の大幅悪化を招く可能性があります。
改定内容の詳細比較表
| 項目 | 改定前 | 改定後 | 影響度 |
|---|---|---|---|
| 特別調剤基本料A(診療所同居) | 適用不可(除外) | 集中率50%超で適用可 | ★★★(重大) |
| オンライン診療施設 | 位置づけなし | 同一敷地で認定対象に | ★★(中程度) |
| へき地特例(範囲) | 0.5km以内 | 4km以内に拡大 | ★★★(重大) |
| 都市部新規薬局減点 | なし | −15点(新設) | ★★★★(極重大) |
| 医療モール集中率計算 | 医療機関ごと | 同一グループ=1医療機関 | ★★★(重大) |
| 施設処方箋の扱い | 回数に含む、集中率除外 | 同上(変更なし) | ★(軽微) |
実務的な留意点
診療所併設薬局が確認すべき3項目
新規開設予定の薬局が検討すべき項目
都市部開設予定者への警告: 東京23区や政令指定都市での新規開設は、立地依存減算(−15点)の対象になる可能性が極めて高いです。特に病院近接地、診療所同一敷地、集中率が自然に高くなる立地は避けるべきです。
採算シミュレーションの見直しを強く推奨します。既存薬局の買収・統合などの代替案も検討してください。
へき地薬局経営者への朗報
地方自治体所有の診療所と同一敷地内にあり、4km以内に他薬局がないへき地薬局は、調剤基本料1(47点)を安心して算定できるようになりました。これまでの「0.5km以内」という厳格な要件から解放され、経営の安定性が向上する見通しです。
経営シミュレーション
シナリオ1:診療所併設薬局(集中率60%)
【改定前(特別調剤基本料A不適用)】
調剤基本料1:45点 × 受付回数 500回/月
= 22,500点 = 約225,000円/月 ≈ 2,700,000円/年
【改定後(集中率60%で特別調剤基本料A適用)】
調剤基本料1 + 特別調剤基本料A:(45+5)点 = 50点 × 500回/月
= 25,000点 = 約250,000円/月 ≈ 3,000,000円/年
【増収】 約300,000円/年(月約25,000円)
シナリオ2:都市部新規開設薬局(立地依存減算対象)
【改定前の想定】
調剤基本料2:40点 × 受付回数 1,500回/月
= 60,000点 = 約600,000円/月 ≈ 7,200,000円/年
【改定後(−15点減算)】
調剤基本料2 − 立地依存減算:(40−15)点 = 25点 × 1,500回/月
= 37,500点 = 約375,000円/月 ≈ 4,500,000円/年
【減収】 約2,700,000円/年(月約225,000円)の大幅減少
シナリオ3:へき地薬局(地方自治体診療所併設)
【改定前(0.5km要件で適用外)】
調剤基本料3ロ:30点 × 受付回数 300回/月
= 9,000点 = 約90,000円/月 ≈ 1,080,000円/年
【改定後(4km要件で調剤基本料1に昇格)】
調剤基本料1:47点 × 300回/月
= 14,100点 = 約141,000円/月 ≈ 1,692,000円/年
【増収】 約612,000円/年(月約51,000円)
今から準備すべきアクション
全薬局共通
- 施設基準の再確認: 現在の分類(調剤基本料1/2/3イ/3ロ)が改定後も有効か確認。特に集中率が変わった可能性がある場合は正確に再計算する。
- 届出書類の準備: 改定後は施設基準届出が必須となる項目が増える。医療機関リストアップ、契約書、立地図面等を整理する。
- 処方箋受付データの分析: 過去3−6ヶ月の処方箋を医療機関別に集計し、集中率を正確に算出する。
診療所併設薬局
- 集中率50%超判定のための正式な集計を実施し、届出を予定する。
- 集中率50%以下の場合、他医療機関からの処方箋受付増加策を検討する。
新規開設予定薬局
- 立地選定時に都市部か非都市部か、病院・診療所からの距離を慎重に検討する。
- 立地依存減算対象になる可能性が高い場合は、採算性再検証を急ぐ。
へき地薬局
- 4km以内に他薬局がないことを確認し、調剤基本料1昇格の届出準備を整える。
よくある質問(FAQ)
Q1:診療所と同一敷地でも特別調剤基本料Aが取れるようになったとはどういうこと?
A:従来は同一敷地=自動除外でしたが、改定後は「集中率50%超」という条件で適用可能になります。つまり、併設診療所に加えて他の医療機関からも処方箋を受け付けていれば対象になります。
Q2:医療モール内の複数診療所はどう計算されるのか?
A:同一グループの医療機関として「1医療機関」と見なされ、そのグループからの集計合計で集中率が判定されます。これまで「複数の小規模診療所」として分散報告していた場合、集中率が跳ね上がる可能性があります。
Q3:都市部での新規開設は実質不可能か?
A:−15点減算により経営収支が大きく悪化するため、相当な工夫が必要です。ただし医療モール内の複数医療機関対応、かかりつけ薬剤師加算、在宅医療強化など別の加算組み合わせで補うことは理論上可能です。採算シミュレーションの徹底的な見直しをお勧めします。
Q4:オンライン診療施設が同一敷地にあるメリットは何か?
A:その施設からの処方箋受付が集中率計算に含まれるため、特定医療機関への依存度を緩和できます。今後オンライン診療拠点が増加する見込みなので、先制的に周辺医療機関との連携を強化する価値があります。
まとめ
2026年の特別調剤基本料A/B見直しは、「面分業推進」という政策的な大転換を具体化したものです。診療所併設の除外規定撤廃は一見「好材料」ですが、実際には「他医療機関からも処方箋を受け付けなければならない」という努力義務が増えることを意味します。
一方、都市部新規薬局への−15点減点は極めて深刻で、既存の採算性を前提とした出店戦略は根本的な見直しを迫られています。
へき地薬局にとっては朗報です。4km要件拡大により、経営安定性が大きく向上する見通しです。
改定施行日(2026年6月1日)に向けて、各薬局は今後3ヶ月で①集中率正確計算、②施設基準届出準備、③経営シミュレーション更新を優先課題とすべきです。

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