調剤基本料の完全解説~2024年から2026年改定までの歴史と薬局経営への影響~

2026年3月9日月曜日

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調剤基本料の完全解説~2024年から2026年改定までの歴史と薬局経営への影響~

調剤基本料の位置付けと改定の背景

調剤基本料は、すべての薬局が算定する最も基本的な報酬で、処方箋1枚受け付けるごとに点数が加算されます。2026年度の調剤報酬改定では、調剤基本料の見直しが最大の焦点となりました。その背景には、2015年10月に策定された「患者のための薬局ビジョン」の目標達成が10年経過しても進まず、むしろ処方箋集中率が高い門前薬局が増加し続けているという現実があります。平成27年(2015年)時点で95%以上の集中率を持つ薬局が14.0%だったのに対し、令和6年(2024年)には17.3%に増加。85%以上の高集中率薬局も32.5%から39.3%に増加しており、面分業の推進が進んでいない状況が浮き彫りになったのです。2026年改定では、この「立地に依存した薬局経営」から「機能に基づいた薬局経営」へのシフトを強制するような施策が導入されることになりました。

2024年改定から見た現行の調剤基本料の体系

2024年(令和6年)改定時点での調剤基本料は以下の通りです。調剤基本料1が45点で、処方箋集中率が70%以下の薬局が対象。調剤基本料2が29点で、月の処方箋受付回数が4,000回超(上位3位医療機関の集中率70%超)または月2,000回超で集中率85%超、または月1,800回超で集中率95%超。調剤基本料3イが24点で、月1,200回超2,000回以下で集中率85%超、または月1,000回超1,200回以下で集中率95%超。調剤基本料3ロが19点で、月600回超1,200回以下で集中率85%超。調剤基本料3ハが35点で、単一医療機関への依存度が高い薬局、医療モール等での特定条件を満たす薬局向け。特別調剤基本料Aが5点で、敷地内薬局やへき地対応薬局。特別調剤基本料Bが3点で、介護施設内薬局等。この体系は、集中率と受付回数の組み合わせで薬局をランク分けし、より多くの医療機関から処方箋を受け付け、多様な患者に対応する薬局を高く評価する仕組みになっていました。

2026年改定における調剤基本料の点数変更

2026年改定では、面分業推進と経営環境悪化への対応という2つの目的で、調剤基本料が以下のように改定されます。調剤基本料1は45点から47点へ2点引き上げ(面分業推進と経営対応による重点配分)。調剤基本料2は29点から30点へ1点引き上げ。調剤基本料3イは24点から25点へ1点引き上げ。調剤基本料3ロは19点から20点へ1点引き上げ。調剤基本料3ハは35点から37点へ2点引き上げ(面分業推進と経営対応による重点配分)。特別調剤基本料Aは5点で据え置き。特別調剤基本料Bは3点で据え置き。全体的に見れば、調剤基本料1と3ハの「優遇」と、それ以外の「限定的引き上げ」という、きわめてメリハリのある改定になっています。この点数差は一見小さいように見えますが、月の処方箋受付枚数が多い薬局ほど、その差は累積して大きな経営インパクトになります。

「門前薬局等立地依存減算」の新設~実質的な参入規制

2026年改定で最も注目すべき新施策は、「門前薬局等立地依存減算」の導入です。令和8年6月1日以降に新規開設する薬局で、以下の要件に該当する場合、調剤基本料から15点を減算します。①特別区または政令指定都市に立地する(ただし、半径500m以内に他の保険薬局がない地点を除く)かつ②月の処方箋受付回数が1,800回以下で処方箋集中率が85%超、または月の処方箋受付回数が1,200回以下で集中率が95%超の場合。この減算の対象は、調剤基本料2に該当する薬局です。つまり、都市部で小規模かつ高集中率の新規開設薬局は、基本的に基本料2となりますが、そこからさらに15点減算され、実質的には15点程度の点数になるということです。これは厚生労働省の強い政策的メッセージであり、「処方箋集中率が高い門前薬局は、今後新規開設を認めない」という事実上の参入規制に近い措置といえます。日本保険薬局協会(NPhA)はこの減算に対して「断固反発」し、「不公平・不合理で時代に逆行する」との声明を出しました。

医療モール内薬局への新規制~複数医療機関を「1つ」と見なす

2026年改定では、医療モール内での処方箋集中率の計算方法が大きく変わります。これまで、同一建物内にあっても別々の保険医療機関から受け付けた処方箋は、それぞれ独立した集計がされていました。しかし改定後は、同一建物内・同一敷地内の複数保険医療機関の処方箋は「1つの医療機関」とみなして集計されるようになります。つまり、医療モール内に内科、外科、整形外科が入居していて、それぞれから処方箋を受け付けていた場合、これまでは3つの医療機関から受け付けたと計算していたのが、改定後は「1つの医療機関からの処方箋」として計算されるということです。この変更により、実質的な集中率が大幅に上昇します。例えば、医療モール内に複数診療所があり、それらから合計300回の処方箋を受け付けており、全受付回数が400回の場合、従来は各診療所ごとに75%や80%の集中率だったのが、改定後は「1つの医療機関から300回」→「300÷400=75%」となり、表面的には同じように見えますが、それが「1つの医療機関」という認識になるため、基本料の判定が大きく変わるということです。この改正も、医療モール戦略による高集中率の形成を抑制する厚生労働省の意図が明確です。

同一グループ店舗数300以上の区分撤廃

調剤基本料3ロおよび3ハの施設基準から、「同一グループの店舗数が300以上であること」という要件が削除されました。これにより、大型チェーン薬局グループでも、同一グループという理由だけで有利な点数配置を受けることはできなくなりました。この変更は、チェーン薬局の経営効率を理由とした優遇措置が廃止されたことを意味し、今後は各店舗の「実績」(処方箋受付回数と集中率)に基づいた個別評価がされることになります。

特別調剤基本料Aの除外規定の廃止

従来、同一建物内に診療所がある場合、特別調剤基本料Aの適用が除外されていました。これは敷地内薬局が形式的な「敷地内」であっても、実質的には門前薬局化しているケースを防ぐための措置でした。しかし2026年改定では、この除外規定が廃止されます。ただし、「既存薬局には遡及的に適用しない」という経過措置が設けられており、新規開設の場合のみこの新ルールが適用されることになります。これは、へき地における自治体運営診療所敷地内の薬局など、特定の公益的役割を果たす薬局については、同一建物内でも特別調剤基本料Aを認める道を開くものと考えられます。

経営シミュレーション~調剤基本料の点数変更による年間インパクト

1点=10円で計算します。月間処方箋受付2,000回の薬局の場合、調剤基本料1(45→47点)は+2点×2,000回×12月÷処方箋1回=24,000円/月×12月=288,000円/年の増収。月間処方箋受付1,000回の薬局の場合、調剤基本料3イ(24→25点)は+1点×1,000回×12月=120,000円/年の増収。月間処方箋受付500回の薬局の場合、調剤基本料3ロ(19→20点)は+1点×500回×12月=60,000円/年の増収。これらの増収額は、調剤管理料や薬学管理料の増減と合算されるため、単純には判断できませんが、調剤基本料だけで見れば年間数万円~数十万円の増収が見込まれます。

門前薬局等立地依存減算による減収シミュレーション

都市部で令和8年6月1日以降に新規開設する薬局で、月の処方箋受付回数が1,500回、集中率が90%の場合を想定します。この薬局の基本料は「基本料2(30点)- 門前薬局等立地依存減算(▲15点)= 実質15点」となります。仮に同じ条件で現行ルール(2024年改定基準)で開設した場合、基本料2(29点)で算定されます。改定後の15点と改定前の29点の差は▲14点となり、月1,500回×▲14点×10円=▲2,100,000円/年の減収になります。つまり、都市部で高集中率の新規開設薬局は、年間210万円程度の減収を覚悟しなければならないということです。これは実質的な「参入規制」に等しい措置です。

医療モール内薬局への影響ケーススタディ

医療モール内に5つの診療所が入居しており、薬局がそれらから合計800回の処方箋を受け付けている場合を想定します。薬局の全受付回数は1,000回です。改定前は、各診療所からの受付回数を個別に計算し、最も多い診療所からの受付が200回の場合、「200÷1,000=20%」という集中率で計算していました。したがって基本料1(45点)が適用される可能性がありました。しかし改定後は、医療モール内の5つの診療所を「1つの医療機関」とみなし、「800÷1,000=80%」という集中率で計算されます。これにより、基本料2(30点)またはそれ以下に区分が下がる可能性が高くなります。その結果、医療モール戦略による「見かけ上の低集中率」が通用しなくなり、実質的な依存度が正当に評価されるようになったのです。

賃上げ・物価対応加算による補完

2026年改定では、調剤基本料の点数引き上げが限定的であることを補うために、新たな加算が設けられました。調剤ベースアップ評価料(4点、処方箋受付1回につき)が新設され、令和9年6月以降は8点に倍増されます。この加算は、薬局が勤務職員(薬剤師・事務職員等)の給与改善を実施している場合に算定できます。また調剤物価対応料(1点、3月に1回限り)が新設され、令和9年6月以降は2点に倍増されます。つまり、月2,000回の処方箋受付薬局の場合、調剤基本料の直接的な増点分(+2点×2,000回≒+40点/月)に加えて、ベースアップ評価料(+4点×2,000回≒+80点/月)と物価対応料(+1点×1回≒+1点/月)が加算されることになり、合計で毎月120点程度の増加が見込まれます。これは実質的には、調剤基本料自体は2点引き上げですが、付属加算の充実により、総合的には大幅な増収効果がもたらされるということを意味します。

実務対応:2026年6月改定への準備(3段階)

**Phase 1(3~4月):現状分析と区分予測** – 自薬局の直近12か月の月別処方箋受付回数を正確に集計し、平均値を算出します。同時に、最大集中率(最も多く処方箋を受け付けている医療機関の割合)を明確にします。医療モール内に薬局がある場合は、改定後の新ルール(モール内複数医療機関を1つと見なす)で集中率を再計算します。現行の区分と改定後の予想区分を比較し、どの程度の点数変化が生じるかを試算します。新規開設予定がある場合は、都市部での開設による門前薬局等立地依存減算の対象該当性を確認します。

**Phase 2(5~6月改定施行直前):システム準備と職員教育** – 調剤システムの請求ルール設定を確認し、新しい基本料区分、新加算(ベースアップ評価料、物価対応料)の算定条件を反映させます。特に医療モール内薬局の場合は、複数医療機関の処方箋を「1つ」と見なす集計ロジックが正しく機能しているか、事前にテストします。薬剤師・事務職員に対して、新しい加算(特に調剤ベースアップ評価料の施設基準)の要件を周知し、給与体制の見直しに関する検討を開始します。

**Phase 3(6月1日施行以降):実績モニタリングと対応** – 月次で基本料区分の確認と、各加算の算定状況をモニタリングします。特に新規に取得できた加算(ベースアップ評価料など)について、月次の算定回数や点数を確認し、期待通りに算定できているか検証します。門前薬局等立地依存減算の対象になっていないか、毎月確認します。医療モール内薬局の場合は、新ルール下での集中率が正しく計算されているか、保険局への届出内容と照合します。

薬局経営戦略への影響:「転換」か「維持」か

2026年改定の調剤基本料改定は、単なる「点数調整」ではなく、薬局経営の根本的な選択を迫るものです。調剤基本料1(47点)を目指すには、処方箋集中率を70%以下に抑え、複数医療機関から多様な処方箋を受け付ける必要があります。これには、医師への定期的な情報提供、かかりつけ機能の強化、在宅医療への関与など、多くの投資と努力が必要です。一方、調剤基本料3ハ(37点)や3ロ(20点)を維持する戦略もあります。特に医療モール内や駅前立地など、立地に恵まれた薬局は、むしろ「集中率の高さ」をビジネスモデルとしており、それ以外の部分(在宅医療の充実、調剤ベースアップ評価料の取得など)で補完する戦略も有効です。どちらが「正解」かは、薬局の立地、既存顧客層、人員体制によって異なります。改定を機に、「自薬局の経営モデルは何か」を根本から問い直す好機といえるでしょう。

結論~「立地から機能へ」の強制的シフト

2026年度の調剤基本料改定は、厚生労働省が「患者のための薬局ビジョン」を実現するために、最後の強制手段に出たものと解釈できます。点数引き上げの幅を限定し、代わりに門前薬局等立地依存減算、医療モール内薬局への集計ルール変更、ベースアップ評価料などの新加算を組み合わせることで、薬局に対して「立地に依存した経営からの脱却」を強く迫っています。これは一部の薬局協会から「参入規制」との批判を受けていますが、厚生労働省からすれば、むしろ「遅すぎた改革」という立場のようです。今後の薬局経営では、単に点数を多く算定することではなく、地域医療に真に貢献する「機能型」薬局への転換が必須となるでしょう。

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